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AI に「発見」されなければ始まらない — Adobe CEO が語る CX オーケストレーションの壁

エージェント AI が購買を代行する時代に、ブランドをどう再設計するか

エージェント AI 時代の CX オーケストレーション:AI ロボットがブランドと顧客の間に立つ中間者として機能し、「人間の役割再定義」「顧客理解深化」「パーソナライズの質」の3つの壁が示されたインフォグラフィック

Adobe Summit 2026 で CEO シャンタヌ・ナラヤン氏が打ち出したビジョンは、マーケターにとって居心地の悪い問いを投げかける。「AI に発見されなければ、ビジネスはもう始まらない」

SEO(検索エンジン最適化)ならぬ、AI エージェント最適化の時代が来つつある。ユーザーの代わりに調査・比較・購買を行う agentic-ai が普及するにつれ、消費者の一部は「人間がブランドを探す」フローから「AI がブランドを評価して推薦する」フローへと移行しつつある。この変化は、マーケティングの設計原理そのものを問い直す。

エージェント AI 活用の 3 つの壁

ナラヤン氏が提示した「エージェント AI 活用の 3 つの壁」は明快だ。

壁 1 — 人間の役割の再定義: AI のためのマーケティング戦略を、人間が立案・判断する体制が求められる。AI ツールを使うだけでなく、「AI に何をさせるか」「何を任せないか」を戦略として決める役割が人間に残る。

壁 2 — 顧客理解の深化: 透明性のないカスタマージャーニー最適化は成立しない。AI が顧客接点を代行するほど、チームが顧客の生の体験から遠ざかるリスクがある。データに頼るほど顧客の声が抽象化されるというパラドクスだ。

壁 3 — パーソナライズの質: AI でコンテンツの量を爆発的に増やせる時代に、人間の個性で届けるパーソナライゼーションの価値が逆説的に高まる。量で差がつかなければ、質と文脈適合性で差がつく。

CX オーケストレーションという設計思想

アドビが掲げる customer-experience-orchestration の概念は、顧客接点全体を「AI と人間が協調して演出する統合的な仕組み」として捉え直す試みだ。広告・メール・サイト・接客といった個別施策をバラバラに最適化するのではなく、顧客の文脈を横断的に把握して一貫した体験を届ける。

これはツールの問題ではなく設計思想の問題だ。AI 代行経由で来訪した顧客と、直接検索で来訪した顧客では、届けるべきメッセージや体験の粒度が異なる。その差異を判断して応じることが CX オーケストレーションの核心だ。

AI 評価軸(スペック・評価・価格)と人間の情緒的アンカリング(信頼・共感・ブランド愛着)の二重最適化問題を示すデュアル軸ダイアグラム

ブランドを「OS」として再定義する

最も注目すべきは brand-as-os という比喩だ。ナラヤン氏は、ブランドを「AI エージェントと顧客の間に立つ業務インターフェース層」として再定義する。

AI が購買の仲介者になるとき、ブランドは直接消費者と接触するのではなく、AI を通じて評価される存在になる。このとき選ばれるブランドは、感情的な訴求だけでなく「AI が評価しやすい構造化情報・スペック・社会的証明」を整えているブランドだ。

ai-discoverability ——AI に「発見・評価・推薦される」設計力——がマーケターの新しい必須スキルになる、というのがアドビのビジョンだ。

二重最適化問題という現実

ただし、この変化には根本的な緊張がある。AI 評価軸に最適化すると、**人間の情緒的アンカー(emotional anchoring)**を失いやすい。スペックと価格と口コミ集計に最適化したブランドは、機械には評価されやすい一方で、人間には「どこかよそよそしい」印象を与えかねない。

AI 代行下でも、人間側は情緒的なブランド愛着を持ち続ける。つまり AI 評価軸と人間情緒軸の二重最適化が求められ、これが向こう 2〜3 年のマーケティング論争の核心になる。アドビのビジョンは問いを立てだけで、答えはこれから市場が出す。

参考:AIに「発見」されなければビジネスは始まらない アドビCEOが語った、AIエージェント活用3つの壁(ITmedia マーケティング, 2026)

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