マーケ脳 market-know.
JA · EN
FILES ·

「嫌い」と言いながら買う — ランダム商法が消えない行動経済学的理由

9割が反対を表明しても、顕示選好が現実を書き換える

9割の消費者が「NO」を掲げる左側と、ガチャマシンから溢れるカプセルと硬貨が並ぶ右側のスプリット構図。coral・navy・ochreパレット、「9割が嫌い」「売上は伸びる」の日本語テキスト

アンケートで「嫌い」と答えた人が、翌日にガチャを回す。これは矛盾ではなく、行動経済学の観点からはほぼ必然である。

バンダイが掘り起こした「表明選好の罠」

バンダイが実施したアンケートは、消費者調査の教科書にそのまま載せられそうな事例を生んだ。「ランダムグッズが嫌い」と回答した割合は約 9 割。SNS は炎上した。しかし、売上は落ちない

これを「消費者は嘘をついている」と解釈するのは正しくない。正確には、stated-vs-revealed-preference の乖離が起きている。

人は「アンケートに答えるとき」と「実際に財布を開くとき」で、まったく異なる自分として行動する。前者では倫理的・理想的な自己像を投影し、後者では欲求と衝動が動く。

gacha-mechanism の設計が知っていること

gacha-mechanism の仕組みが消費者心理を正確についているのは、その根拠が B・F・スキナーの箱まで遡るからだ。

可変比率強化スケジュール(variable-ratio reinforcement)、すなわち variable-reward は、固定報酬より強力な行動維持効果を持つ。報酬が「いつ出るかわからない」ときこそ、ヒトは最も長く・多く・粘り強く行動を続ける。スロットマシンが古びないのも、ガチャが廃れないのも、同じ神経メカニズムが働いているからだ。

1 回あたりの支出は少額に設計される。そして少額であるほど、「もう 1 回だけ」の閾値が下がる。

「もう 1 回」を止められない loss-aversion のループ

ガチャの怖さはここから始まる。「目当てが出るまで」引き続けた人は、止める判断がますます難しくなる。

loss-aversion の観点では、「今ここで止めること=これまでの投資が報われない損失」として脳が感知する。Kahneman と Tversky が示したとおり、損失の痛みは同額の利得の約 2 倍の重みを持つ。つまり、止めるほどに損失感が大きくなる

ランダム商法の強さは「当たりが出る確率」ではなく、「止めることへの心理コスト」を設計したことにある。

行動経済学チャート:表明選好(dislike)が横ばいなのに対し、顕示選好(購買行動)が上昇するグラフ。可変比率強化スケジュールの曲線を重ね合わせた図

企業が批判を聞かない理由

炎上に対してバンダイが撤退しない理由は単純だ。批判しているのも買っているのも同じ 9 割だからである。

ランダム商法の売上を支えているのは、アンケートで「嫌い」と答えた層そのものかもしれない。表明選好は道徳的な理想自己の表明であり、顕示選好は神経系が実際に動いた結果だ。企業は前者の声に反応するふりをしながら、後者の数字で事業を評価する。

規制論や倫理論は重要だが、「批判が増えればランダム商法はなくなる」という仮説は、消費者心理のメカニズムを誤解している。

批判の先にある設計論

より生産的な問いは「ランダム商法をなくすか否か」ではなく、「variable-reward の仕組みを使いながら、過激なプレイヤーへの害を最小化するにはどうするか」だ。

pity timer(一定回数で必ず当たりが出る保証)、上限設定、履歴の可視化——これらは、依存のループを断ち切るアーキテクチャとして有効であることが示されつつある。

批判的な消費者が 9 割いて、それでも事業が成り立つのなら、問うべきは設計の倫理である。表明選好と顕示選好の乖離は消えないが、その隙間をどう埋めるかは、企業の選択にかかっている。


参考:東洋経済オンライン「『ランダムグッズが嫌い』と9割が回答、バンダイアンケートが大炎上…それでもランダム商法がなくならない”本当の理由”」(2026)

関連記事